2010-01-01から1年間の記事一覧
ドイツの騎士伝説の外伝たる民話。 その花を食せば忽ちに悩み迷いが霧消する植物。 栽培が難しい上に、十年一夜に一輪だけ花を咲かすという。 病の娘を恋人に持った男が、彼女のために幾株も集め丹精込めた末にひとつだけ蕾がつく。 しかし、こんなにも蟲惑…
庭に枯葉が吹き込み/降り積もる季節。 手に取った一葉。 試みに裏の葉脈を辿ると‘あたり’に行き着く。 景品は何か? * 会期残すところ僅かになった個展“Miroir”。 (会期26日まで延長しています)。 25日会場で行われるイベントへの参加のみならず、 好評に…
腹が減ったと顔を出すと、叔母はさっと一人前、麺を炒めて出してくれた。 食卓と対面の台所には、もの持ちが良いのかインテリアなのか、一枚扉の白い大きな冷蔵庫が鎮座している。 隣の仕事部屋から叔母がバタバタと戻ってきたかと思うと、そこにメモを留め…
南北戦争後の混乱に乗じた名立たる強盗の中でも、彼は脱走の名手としても知られた。 あたかも趣味であるかの如く、捕まっては脱走を繰り返す。 それも、錠を破るのでも穴を掘るのでもなく、人手から牢から裁判所から刑場から、忽然と消えるのだった。 仕舞い…
子供の頃。 駅前の駐輪場の裏手に閑散とした一画があって、 テレビでも何度か心霊スポットと紹介されたことのある廃ビルはそこに建っていた。 果たして幽霊は実際住んでいて、正体は年老いた女性の浮浪者だったのだけれど。 毎年、初夏の頃から、微かに空気…
十一月は、イメージで捉え難い。 秋と冬の間隙だからだろうか。 その空いたところに作品を並べ置くことにする。 すると、言葉が、手が、視線が交わされ、 ささやかに賑わいが興る。 この機に関わった者だけの、特別な季節を象るかのように。 散らばった点を…
久しく会っていなかった友達に、食事へ誘い出される。 思い出したように届く時候の挨拶から、疎遠の理由は結婚〜出産と承知していたけれど。 落ち着く気配すらないこちらを話の妻に、自ずと暮らしの報告を聞かされる。 浮草たる身の所以、距離を置いて打つ相…
ふと口を吐いて出たフレーズは‘You And Your Dog’だと気付いたけれど、以前に処分したレコードに収録されていた曲だった。 それが、旋律頭に回るままに入った中古盤屋で見付かるのだから、買い直さずにはいられない。 答合わせに臨むかに鼻唄交じりでいざレ…
次の土曜に予定していることを、口に出して言ってみる。 ‘ピクニック’。 語感面白く、繰り返す。 ックックックック…リズム刻む内、 興味は対象の前に失速していた。 * 以下に案内する展覧会。 明日11日、14時からのトーク【メールアートの楽しみ】に参加し…
8月29日。 朝起きると足先が痺れていて、背中の痛みは尚更。 洗面台に見る顔、首には、発疹が酷い。 せめて前日はと、ゆっくり過ごしたのが仇になったか。 堰き止めていた疲れが、どっと噴き出した形。 暑さにも追い立てられて家を出る。 乗り換えの大船駅…
9月1日。 個展に備えて、画材の買い出しに向かう町田。 買い物自体は簡単に済むと考えていたので、つい予定を加える。 横浜線で駅二つ隣の淵野辺。 陽を遮るものがない道を20分歩いても目的地が見えないことに、 ついでとは言わないなと苦笑い。 地図を頼…
小学校低学年までの僕は空っぽで、周りに対しては反射で応えているだけ。 おまけに喘息持ちで学校も休みがちなものだから、 未だ消化しきれないほどに記憶に溜め込んだ、日々変わり映えのしない景色が周りだった。 そんな有様で床に伏したところを、一度切り…
8月14日。 まず鎌倉に出てクラウド・ビルディングに向かう。 木木のオーナーに挨拶して、29日北鎌倉での催しのチラシをお願いする。 そのまま、北へと趣向が向かうもの作りの話。 陶芸、刺繍に紙の仕事。 web検索では当たらない、実物に触れることで出会い…
ひょんなことから、とある画家の米寿の祝いの末席に加えさせてもらった。 ご馳走目的で足を運んだものの、挨拶ばかりは済ませておこうと主賓に近付いたところへ、 酔狂からと思うような質問を耳にする。 ‘先生はなぜ描かれるのですか’。 応えて‘白いままの画…
7月3日。 レコード屋が撤退する街、渋谷。 連日のように閉店セールが行われているのだから、出発に気が急くけれども、 用心し過ぎた準備に食われて、レコード繰る猶予は潰えている。 それでも、探していたCLAUDE CAHUNの写真集ばかりは洋書屋で手にして、 …
雨の中、道に迷っている。 プリントアウトしてきた地図の上でも、 傘から落ちる滴にインクが滲み、覚束なくなる。 呼応するかに、視界まで滲み流れ出すほどの酷い雨。 逃げるようにして、ようやっとのこと大通りに出れば、 見覚えのある場所。 二つも駅を越…
開いて、 畳んで、 箱に仕舞う。 シンプルな作業の中に、 良し悪しは別にして、経験や資質が表れる気がする。 部屋で過ごす。 家で暮らす。 世界にある…のと同じように。 開いて、畳んで、仕舞う。 * そんなことに気付かせてくれる搬入仕事。 考えまで簡潔…
以前に湾岸の工場地帯でバイトした折、 現場へと向かう車の中から、高く積まれた救急車、消防車の山を見た。 処分を待つ廃車の集積所なのだろうけれど、 粗暴な手によって目指された緻密のようであって、あれはまるで巨人の積木だった。 そういえば神奈川に…
その人から届いた葉書の表には、なにも書かれていなかった。 問い質そうにも、今になって分かる連絡先は、そこに記載された住所だけ。 けれど、手紙してまで尋ねるのも憚られる気がする。 ぽかんと白く空いた表面といい、細い字で二つ連ねられた住所といい、…
cutter knife skating -1 僕の時間には欠落がある。 酔って暈したような記憶ではなく、 気が付くと別の場面にいるような、 すっぱりとした切り口の欠落。 だからだろうか、時間を連続体と捉えることが出来ない。 どこかで、映画のようなコマの束と感じている…
僕以外の者にとって、僕は不要だ。 僕の不在に可能性が満ちる。 ‘お前は要らない’。 ありがとう、その一言を待っていた。 もはや、切る者も切らられる者もない。 cutter knife skating。 ただ、動線だけが閃く。
自転車で坂道を下るのは楽しい。 近所につづら折りに曲がる凄い坂があって、ついついブレーキも緩む。 週一の通勤路で必ず出会う、女だてらにこの難所に挑む人があるのだが、 一度として追い越せたことがない。 歩道がなく白線が引かれただけの車道…抜くには…
cutter knife skating -5 英国の創音集団THE NEW BLOCKADERSは、 その初期に‘アンチ’をスローガンに掲げていた。 無に到るまでの排斥。 一方で無音のトラック、他方で金属の軋みで充満した音空間、 いずれもがその成果なのだろう。 両者が表裏…均質なものだ…
cutter knife skating -4 個人の認識は、他者のものをも捻じ曲げる。 例えば、記憶の欠落で出会った人に、 挨拶されても返しようがない。 断線した交流から、互いが互いの知人項から削除される。 例えば、因果律に並ばぬ記憶は文脈を欠き、情緒が失われる。 …
cutter knife skating -3 過去が瞬く景色の束であるならば、 ‘今’も、一瞬毎人それぞれに配られるカード。 それは自ずと、個人の領域をも示す。 僕の手にある‘今’と、君の‘今’は別のもの。 立ち入ることは出来ない。 せいぜいが、僕からもカードを渡すばかり…
触れられるものなどないような、希薄な空。 ものまで遠い、凛とした空気。 僕は冬に惹かれる。 記憶が、 抽斗沢山に仕舞いこまれた、 瞬く景色のカードの束だとしたら。 一度ひっくり返してしまえば、脈絡は断ち切られる。 取り出す毎に、今の印象を問われる…
a happy new year !!!