渋谷小屋

linedrawing2010-07-13

7月3日。
レコード屋が撤退する街、渋谷。
連日のように閉店セールが行われているのだから、出発に気が急くけれども、
用心し過ぎた準備に食われて、レコード繰る猶予は潰えている。
それでも、探していたCLAUDE CAHUNの写真集ばかりは洋書屋で手にして、
円盤ジャンボリーへと向かう。


会場のO-NESTは、出演・関係者ばかりでも結構な人。
知った顔を見付けながら、一つ下のフロアへ降りる。
書き割りのキャバレー醸すバンドが演奏しているが、寡聞にしてリハーサル進行のどの辺りなのか見当もつかない。
脇に他作家の自作楽器が組み上がっているのを見るところ、僕らの順番も直ぐのようだ。
ぼんやり眺めているところに佐藤さんも到着。
話すままに、案の定、間を置かずして舞台の上にいる。
1フロアに前後2舞台で繋いでいく構成らしく、TEASIの演奏を前に見ながらセットを組んでいく。
僕の用意は椅子を置きケースからバンジョーを取り出すのみだけれど、対して佐藤さんのペーパーロール式のオルゴール様装置はといえば、手間の上で圧倒的に不利だ。
だからといって組み立てに手を出すわけにも行かず。
自然、ぼんやりが多くなる。
音出し始って弦を弾けば、きれいに響いて聞こえる。
マイクで拾ったのが初めてであるばかりでなく、O-NESTのスタッフの功であるのは明らか。
チューニングが気になり出した昨夜、朝まで調整していた自分は汲みようがない。
僕らの出番はリハが最後で本番が最初…リハが済めば直ぐに客入れだ。
舞台に得物しか載っていないことに気付き、慌てビール買いに走る。
喉を潤したところで一曲目。
2分ぐらいに予定していたものを、客足に合わせて倍に伸ばす。
さて、一区切り置いたところからが勝負。
次の曲で持ち時間の残り50分、仕舞いまで行くのだから。
あとは客席も前舞台も見ず、手許で1フレーズが連続する世界。
階下の別ホールではハードコアのライブか、妙なタイミングで時が刻まれているみたいだ。
大城真さんの装置だろうか、金属音が轟き…ということは残り30分。
佐藤さんがポータブルのテープレコーダーで録音/再生を反復し始める。
増幅された混沌を嫌ってか、軋む音が退いて行く。
目の隅に飛んで来た風船は、梅田哲也さんの得物?
今度は佐藤さんが嫌ったかのように、蹴り返している。
ju seiのせいさんが場内アナウンスを呟き出したから、仕舞いも近い。
自分たちのバンド名、IL GRANDE SILENZIOの響きの妙ちきりんさに気付かされ、吹き出しそうになる。
いや、リハでは大笑いしてしまった。
Mark Sadgroveさんのだろう、ガジェットめく装置音が本人の解説と共に流れ出し、大団円。
さっさと片付け裏へと退く。
演奏前のぼんやりが効いて最後まで保ったように思うが、終わってのぼんやりはまた別。
ふぅ。


円盤首領・田口さんの客の反応は知らないけれど…の一言に、応えてニヤリ。
テラスから見上げた窓に目があったbookshop KASPERオーナーが振ってくれた手も。
物販から厨房から八面六臂の活躍を見せていた・戸井さんといい、久々に会って話したSweet Dreams福田さん、熱く語ってくれたシバタさんも、僕が自分に与えた及第点に納得してくれた様子。
そうなればなったで、演奏していたのが自分とは思えなくなってくる始末。
展示会場で自作を前にした時と同じ気持ちだ。
とはいえ、安心して夕飯に出るチームIL GRANDE SILENZIO。


屋根裏にカーニバル招く設えの定食シロクマ
フェイバリット・バンドの曲が連なる店内BGMに意識奪われた佐藤さんを余所に、ハンバーグとコロッケの定食を美味しく頂く。
素直な味でもてなしてくれる場所は、決まって隙間の奥の方にあるみたい。
女子二人で切り盛りしているのに、ごはんとおかずを鉄則としているかの献立も嬉しい。
Mさんとクラスター、ICC…と話題に挙げていたら、エコーのように別テーブルからも同じ単語が聞こえる。
隙間の奥へは、一つ道を通る他辿り着けないようだ。


会場に戻れば、あとは演者から観客に。
人波かき分け眺め確保しての、ドラびでお
生ドラムと追いつ追われつする、曲と映像のコンビネーションのその酷さ。
賞賛の言葉探して出てくるのが‘酷い’他ないなんて、痛快この上ない。
ついて行けなくなったか…あれほどの人入りからバラバラ脱落者が出ようが、お構いなしの痛快さ。


疲労困憊の顔で佐藤さん達が帰った後も、トリを観たくて粘る。
アメリカから来たMAQUILADORA
サイケデリックな閃きに揺らぐフォークロック。
終電車と一曲一曲との計りが弛緩するほど、ゆっくりと紡がれる唄。
それでも残った判断から、終わらない演奏に後ろ髪引き抜かれつつ帰路に着く。
どこまでも延びていく唄の残響/一日の残像に、車内で眩む。