ピエール・シニアック – ウサギ料理は殺しの味(創元推理文庫)

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労働も経済も工場で賄われている街。
自己完結している土地のガス抜きとなるのは、百貨店と売春、そして場違いに内外まで味の知られたレストラン。
81年フランス産ミステリといっても、些か単語に修正を加えれば、なんとまぁそのまま日本の郊外の現在にそっくり重なるかの設定。
さてそのレストランの日替わりディナー・メニュー、木曜に「狩人風ウサギ料理」が出るとなると、決まって殺人が起きる。
背景は不毛な郊外のリアルでも、繰り広げられるのはカートゥーンの影響露わなドタバタとした謎解き。
登場するは自らの性の嗜好に率直な人物ばかり…といっても、影響元は『フリッツ・ザ・キャット』じゃないだろう。
普通に『トムとジェリー』みたいなカートゥーンを…個人的には『ドルーピー』とかのテックス・エイヴリー監督作を想起してもらいたいところ。
ネタバレに繋がるから言い難いのだけれど…そう、あの一向に懲りない延々たる反復こそがここにある。
それもドミノ倒し的に…いやピタゴラ装置的に、ルーブ・ゴールドバーグ・マシンめいて…連なる事象が反復される。
カートゥーン流の反復では、まぁ、猫と鼠の追い掛けっことか…何者かの欲求が宙吊りにされ続けるのだから、これを更に「独身者の機械」と読み換えることも可能だろう。
作中に「レーモン・ルーセル文化センター」なんて施設が現れるのだから、あながち間違った読みでもあるまい。
そしてこの機械は、猛烈な暴力をも歯車にして「日常」を駆動させるのだ。
はたと読んでいる自分の「日常」構造はと想わずにはいられない。
ほら、真っ黒なまでの笑いで以って痒くなるのは、日本の現在もやっぱり一緒だろ。