触れる端から消えて行くもの 3

linedrawing2008-10-01

22日。
地図を見ていたらVia Fabio Filziという通りに聞き覚えがあり、なにかあるやもと午前中にミラノ中央駅から歩いてみることにする。
中央駅は、通勤通学観光での賑わいにボロボロになりはしないかと不安になるほどの壮麗さ。
ほとんど、権謀渦巻く御殿の装いだ。


目指す通りには目に付くものもなく、どんどんと抜けていく。
視界の両脇を塞ぐ高い建物から景色が開けると、大きな街路樹、煤けた建物や鄙びた店、途端に眺めが面白くなる。
小さなパン屋で買物して食べながら…うん、ここは生地が旨い。
役所かと思う大きな建物は映画館だ。
BENTO BARなんて看板も出ている。
そういえば、数日前に見た寿司屋に飾られていた‘君の寿司は僕の寿司’という日本語のキャッチフレーズも可笑しかった。


昨日の案内人は、写真家。
お願いしていた展示撮影を覗きに、休廊日の会場に正午到着。
終わって一緒にお昼でもとの予定が、作品が鏡であることもあってか時間が掛っている。
集中切らさぬようにと抜け出し、奥さんの方に案内してもらって書店へ。
店内は、さほど広いとは思えない印象に反して充実の書架。
日本では目にしたことがなく、自分への土産の一つと考えていたLUIGI SERAFINI“Codex Seraphinianus”は近日入荷の残念だけれども、昨日擦れ違いのPadiglione d'Arte Contemporaneaでの展示カタログはここで見付かる。
イタリアといえばBRUNO MUNARIもと思い出し、絵本、デザインのコーナーで釣果得る満足。


それと知られたパンツェロッティ…揚げパン?かな…を買って戻ると、すでにして撮影は済んでいて。
熱い内にと、揃って齧り付けば絶妙な味。
地元っ子が並ぶのも納得。


この日は早くに戻って、連絡だブログだの文章綴るのに宿籠り。


23日。
トラベラーズチェックの換金にドゥオーモまで出たのだからと、観光気分出して大聖堂の中に入ってみる。
薄暗い空間に光射す巨大なステンドグラス、蝋燭に、軽い気持ちは吹き飛ぶ。
高い天井は、内部の人間が支えるのではなく、それを呑み込むんだ…大勢の観光客を丸々とね。
屋上にも登ってみるが、上に向かう程に悪くなる足場に、自分が高所恐怖症だったことを思い出す。


この日も、書店、CD屋を基点に歩く歩く。
ある大型店舗で‘イタリアン・ブログレ’コーナーがあるのを見付けたのは良いけれど、扱っていたのが日本盤であったことにショックを受ける。


土産にと、FABRIANOでノートをまとめて購入。
この選択もBRUNO MUNARI絡みかな。
目的を尋ねられて、旅の土産と伝えたら、丁寧に包装してくれて嬉しくなってしまう。
組みものまでバラして、愛らしい人が一冊一冊可愛らしく。


15時、展示会場到着。
先日の大学生2人が、また来てくれている。
作品か出会いのいずれをかは分からないけれど、面白がってくれているのは確かなよう。
はい、こちらも楽しませてもらっています。
他にも、リピーターがあるようだよ。


CD、レコードならあそこにも扱いはあるけれど…スノッブとの忠告も呑んで、帰りに向かうセレクトショップ
2階の書店中央が丸々音楽扱い…が、なんだろうね、このエッジの採り方は。
セレクトショップでありながら、選択している人の趣向が見えてこない。
なにか、この国にとって‘現代’は輸入で賄っているような気がしてくる。
歴史の上を通過していくもの…なのか。


夜は、初日に足を運んでもらった父の友人のミラノ在住の友人に誘われての食事会。
車で拾ってもらって、郊外のレストランへ。
場所は…蚤の市で行ったサンドナート方向だ。
店の気さくな出迎えに、期待高まる空腹。
食前酒で乾杯して、まずは生ハムメロン…こんなに旨いものだったなんて想像すらしなかった。
べらぼうに安くてハズレなしのメロンって、どうなっているんだろう。
続く料理にも、舌鼓を打ち続ける。
考えてみたら、今回の旅の基調は‘おいしい’かもしれない。
誘ってくれた人、その会社の同僚、僕とで、味に煽られ語る語る。
あっという間の夜半。


24日。
コーディネイターさん…という表現が当たらないのは、もうとっくに承知している。直接ではないにしても、今展示のキュレイターさんというのが正しい…に付き合ってもらっての、土産買い出し。
話聞いて是非にと連れて行ってもらった毛糸屋は、本当に素晴らしい。
工場みたいな空間一杯に毛糸玉が積まれていて。
カウンターからレジまで、手作業の感触が残るよう。


小さな菓子店でマロングラッセ購入。
味見したラベンダーのお菓子、キュレイターさん絶賛のチョコも併せて。
甘党なので、経年と共に糖分染み込んだかの店内に痺れる。


道々見付けた書店で尋ねてみるが、大きな展示の反響も手伝ってか、LUIGI SERAFINI“Codex Seraphinianus”はどこも品切れ。


路地奥の店で、父と妹の旦那にと財布を買う。
餞別貰ったこともあって、ここは奮発。
…よりも、柔らかい革がそれぞれの手に馴染む姿を想起して。


二つ折りに具を包んだピザをお昼に食べたことも手伝ってか、食材店では壜詰をいくつか選ぶ。


妹には、祝いの品等を布で拵えている店で、トートバッグ。
刺繍あしらえるばかりの簡素さが、良いように思えて。


昼過ぎに展覧会場。
キュレイターさんとは一旦別れて、しばし在廊。
階下の美容院スタッフに明日帰国と伝えると、会期に合わせて滞伊しているのかと思ったとか、なぜ日本になんか戻るのかとか言われて…ははは。
やはり心残りはレコード漁りと、Die Schachtelに何度か電話してみるが、繋がらない。


ダメ元と会場早々に抜け出し、あの倉庫と思しき場所へと向かう。
この無謀は大当たり。
扉は開かれ、恐ろしい程の在庫揃えた内部へと招かれる。
音盤繰る手が笑い出す程に、凄い凄い。
おまけに、展示インビテーションを差し出せば、僕のことを知っていて。
角田俊也さんのHapnaからリリースされたCDジャケットで、まさか見知っていたとは。
ちょうど来店していた客とオーナーとで、夢中夢という日本のバンドについて知っているかと聞かれるが、思い当たるところなく。
帰国したら、調べて報せますねと。
ふふふ、イタリアで日本のバンドを薦められている。
予想はしていたものの、結局大散財…それでも、ぐっと我慢して、ここはイタリアものに限ってのこと。
どんな音得たかは、いずれ何処かで紹介出来たら。
支払いの段になって、ここではカード使えず、ならばとネット通したら妙なセキュリティに阻まれて。
仕方なく現金換金となったら、オーナーが店閉めてまで案内してくれて。
道々話しながら、結局駅まで送ってもらう。
ではまたの機会を約束して。


そうこうする内、遅刻して伺う写真家さん&キュレイターさん夫婦宅での夕食。
登場するは僕のみであるのに、双子ちゃんも起きて待っていてくれて。
ズッキーニのパスタが、やはり美味し。
食後に今回の展示・旅の写真を見せてもらうが、良い写り程に気恥かしくなる。
やけに楽しそうだ、僕。
その後に、驚愕のお宝まで拝見。
未来派のコレクションだ。
恐れ多くて触れられない。


レジデンスまでの道、写真家さんに送ってもらう。
展示はこの一家との共同作業だったと思えるほど、言葉にするもしないも感謝しかない。
日本語で交わす‘またね’。


25日。
イタリア滞在最終日。
遅く起きて、会場へと向かう。
美容院オーナーが、僕にプレゼントを用意してくれているとは予想外の出来事。
そして、時間ぎりぎりになって熱心な来場者。
自ら案内するのも最後と、粘って話す。
そうして、アテンダントさん、美容院スタッフと再開を期して会場を出る。


宿で荷物拾って、キュレイターさんと空港へ向かう。
チェックイン済まして、筋骨隆々たるイタリア男が揃ったカフェでカフェオレを注文すると、コーヒーでなくてミルクなんて注文するのかと言われる。
可笑しなことばかりだと話している内に滞在時間は尽きて。
本当にありがとう、じゃあまた。


ローマで乗り換えた東京行きの便から、“河岸忘日抄”を読み継ぐ。
すぐに未来派マリネッティの記述にぶつかり、驚かされる。
これじゃあ、本に幕引かれたみたいだな。