WANDERFALK - Mir Sin Noch Lang Nit Ower Schmitz Backes(LP Autogram '80)独

linedrawing2017-11-16

ハヤブサの意の名前を持つ、ドイツのトラッドバンド。
とはいえ、笛やフィドルが柔らかく描く雛びた田舎風景から、鳥を叩き落すようなこのドッタンバッタンしたリズム隊はなんだ。
唐突に鳴り出すエレキも味方に、土地伝来の節回しじゃ唄えないとばかりの気分に任せた調子外れな女声が放たれる。
B面1曲目なんて…言葉が過ぎるかもしれないが…まるでThe Raincoatsへのトラッドからの返答だ。
零落したガレージバンドが帰り着いた郷里で、子供の頃参加していた民謡グループに迎え入れられるという物語を想像してしまうよ。
かといってラスティックパンクみたいな、再発見から伝承に飛びついた感触はない。
特別を望んでというよりは、異物をも呑み込みつつ今日まで続いてきた日常という感じ。
日常とは実際のところ、どんな障害があっても転がっていくのを止め得ないものだろうしね。
風土記や徽章に描かれた様式からは捉え難いが、倒けつ転びつ出来た破れほつれからは誰かの暮らしが見えてくる。
とびきり愛らしい綻びというのもあるじゃない。
しかし…次作でフォークロックとして繕われてしまうというのだから、ちと寂しい。
https://youtu.be/OhAIxLU-j4s

LUIAERDSGILD - Dubbelzout(LP Crossroad '82)蘭

linedrawing2017-11-08

去年の今頃ぐらいからトラッドの音盤に当たりが多い。
いやまぁ、僕の興味の方位からといってしまえば済む話なんだけれど。
ともあれ、口火切ったのはこのオランダのレコードだったはず。
アコースティックな編成に朴訥とした男声、寄合調のコーラスから、伝承歌の採集・延命を務めるグループかと思いきや、どうも違う。
オランダ民謡の旋律は結構バーバリックなんだ…と耳に響いた収録曲、その半分がオリジナルであることに気が付く辺りから、じわじわと捻りが効いてくる。
見知らぬ土地の習俗という大風呂敷に変拍子も妙な構成もまとめて包んでしまっていたが、構造へと向かう視点が明らかにある。
遠景に引っ込んでいるハーディガーディーやバクパイプの響きまで耳に届きだすと見えてくるのは、レコメン周辺のモダンなサロンミュージックと並べたくなるようなミニチュアめく細工。
なるほど、この感触にならジャケットの女児楽団の可憐さもしっくりくる…正直、おっさん声に先導されるとは思わなかったもので。
だからといって、これをフェイクと決めて掛かる必要もないはずだ。
土地や伝統とは「居場所」の謂いに他ならないのだから、住み難ければ改変、無ければ創り出しても構わないものだろう。
共通する節回しが地域に層成す時間であれば、歪みは演奏家が暮らす日々。

ライナーノーツ

linedrawing2017-10-27

Sweet Dreams Pressから発売されたオランダの美術家/音楽家 ダニエレ・ルメールさんのCDにライナーノーツを寄せました。
ルチア・パメラを先達として連綿と続く、乙女語りの創想力。衣装に楽器玩具、オーナメントに書き割りで一杯のクローゼット奥に開く入口。
来日に際しての発売されたのですが…おっと、しまった、ここでの広報を忘れていた。
再びの来邦も約束してくれたので、またの機会のガイドともしてもらえたら。
RaincoatsやY PantsばかりかAnne Gillis、Mauve Sideshow好きにも。
いやいっそ、森茉莉を枕頭の書としている人や、ケリー・リンクの短編集だったりスーザン・ピットのフィルムを拠り所としている人にこそ試してもらいたい。
http://www.sweetdreamspress.com/2017/09/danielle-lemaire-best-of-danielle.html

イベント案内

linedrawing2017-10-10

6月にお誘い頂いたイベント『御座敷ジャングル』に再びDJとして参加します。
音盤/電波鳴らす饗宴に誘われ、秋の夜長へと繰り出してもらえたら幸い。
月影揺らすは鈴か虫か惑わす…酔狂な選曲でお待ちしております。

2017年10月10日(火)
【OZASHIKI JUNGLE】at 三軒茶屋 32016
live. RADIOS (HOL-ON + Spiritjack)
dj. Krasnoyarsk Krai、YOSHIBA SHINJI、門松弘樹、小川敦生
start. 19:30
1000円/1d
-
32016
世田谷区世田谷区三軒茶屋2-14-12三元ビル5F
https://www.facebook.com/32016-231685776862889/

装画

linedrawing2017-10-06

カタリコトリとピアノから零れる遊戯めく旋律。
スピーカーからの再現が、窓から射す陽に、翳を散らしていく。
流れているのは平野剛さんの新しいレコード。
ついに発売されました。
ジャケットに僕の作品添えて、ディスクユニオン池袋店、フクモリ万世橋店の店頭には既に並んでいるはず。
平野さんからの直接購入も可能です。

Go Hirano New LP(70枚限定) 5000円(税込)
ディスクユニオン池袋店 
http://blog-ikebukuro.diskunion.net/Entry/9306/
フクモリ万世橋
http://fuku-mori.jp/manseibashi
フィルモアレコード 
http://www.f-lmore.com

プレヴェール - のんぶらり島(牧神社)

linedrawing2017-09-27

天井桟敷の人々』の脚本で知られるジャック・プレヴェールの仕事にシュルレアリスムの血統求めたら、辿り着いたのは童話。
2冊の絵本を合冊にしたもので、後半の『おとなしくない子のための童話』は別訳も存在するのだけれど…この封筒模した装丁が欲しかったのが、いや本当ところかも。
凝った意匠の表紙をさてと開けば、動物が人と言葉交わすメルヘンにも拘わらず、鋭い刃を突き付けてくる。
前半の『のんぶらり島』でいえば、発展途上の地と領土拡大図る都市との対立が一見それと映るが、そうではない。
それでは寓話のなまくらで済むだろう。
のんぶらり島の住民は「発展」と距離を置くことを自ら選んでいるのだから。
同じ者などいない個々の違いを認められる世界と、同じ価値観の傘の下に全て置かないことには収まらない世界とが対峙する、このリアリティ。
八つのお話から成る『おとなしくない子のための童話』の冒頭に置かれた「駝鳥」。
いらない子供の烙印押す世界などこちらから捨ててしまえと旅に誘う駝鳥の優しさには、血すら出かねない。
その言葉が稀有さに瞬いて零れる。
それで生き死にが変わるわけでも、現実の酷薄さが軽減するわけでもないけれど、世界は他者から成るという前提に了解を得られないのはやっぱり理不尽だ。
理解の向こうの「あなた」と常に対峙していることが証となるだろうに。
それぞれに添えられたアンドレ・フランソワ、エルサ・アンリケのいびつで滅法愛らしい絵にも心解れるが、こんなフィルターを通して世界を眺めることが出来れば、人の中にあって息吐くことも楽になるだろうにね。

モラヴィア - 薔薇とハナムグリ-シュルレアリスム・風刺短篇集(光文社古典新訳文庫)

linedrawing2017-09-25

どうにも性愛の臭いキツいイメージがあったモラヴィアの小説、こうも突飛な世界紡ぐ作品群があったとは。
いや、国書刊行会から出ていた『現代イタリア幻想短篇集』で内2篇は読んでいたのに、別の作家が物したものと記憶していたのだからどうしようもない。
シュルレアリスムと称するには寓意が勝ち過ぎているようにも思うのだけれど、それをチャラにするのは細部の描写。
奇想そのものではなく、それを有らしめる状況の緻密にこそ面白さがあると思えてくる。
例えば…上司夫人が背負う生きたワニを贅沢と見る、訪問者が覚える室内の調度はどうだ。
景色を埋める詳述に、しかとは読み取れないものの、その家の気配が蠢く。
描きようもない「穴」を、「縁」を語ることで示しているのか。
不条理を掴んだ世界の感触がまざまざと伝わってくる。
決着を先延ばしにしてまで微に入るかの語りを措いては、実際、オチへと直通する話の「いまわのきわ」以降の収録作はトーンダウンして感じてしまう。
物語の帰結とは、ひとつの世界を終わらす奈落でもあるのだろうな。
シュルを検閲逃れのギミックとしたことは、同じ大戦下でシュルを標榜すること自体が検閲対象になった日本からすると、皮肉にも覚えるけど…いや違うな、言葉ひとつに酷を見るのは。
なんとしても著すことを止めないために、如何な方策にも手を伸ばし足掻くことに違いはないだろう。
自身求めるところの実現とは、ちっぽけな個人のものであっても「世界」を守ることに違いない。
それは、歴史の大きな結節/帰結の後にも続く物語。