モラヴィア - 薔薇とハナムグリ-シュルレアリスム・風刺短篇集(光文社古典新訳文庫)

linedrawing2017-09-25

どうにも性愛の臭いキツいイメージがあったモラヴィアの小説、こうも突飛な世界紡ぐ作品群があったとは。
いや、国書刊行会から出ていた『現代イタリア幻想短篇集』で内2篇は読んでいたのに、別の作家が物したものと記憶していたのだからどうしようもない。
シュルレアリスムと称するには寓意が勝ち過ぎているようにも思うのだけれど、それをチャラにするのは細部の描写。
奇想そのものではなく、それを有らしめる状況の緻密にこそ面白さがあると思えてくる。
例えば…上司夫人が背負う生きたワニを贅沢と見る、訪問者が覚える室内の調度はどうだ。
景色を埋める詳述に、しかとは読み取れないものの、その家の気配が蠢く。
描きようもない「穴」を、「縁」を語ることで示しているのか。
不条理を掴んだ世界の感触がまざまざと伝わってくる。
決着を先延ばしにしてまで微に入るかの語りを措いては、実際、オチへと直通する話の「いまわのきわ」以降の収録作はトーンダウンして感じてしまう。
物語の帰結とは、ひとつの世界を終わらす奈落でもあるのだろうな。
シュルを検閲逃れのギミックとしたことは、同じ大戦下でシュルを標榜すること自体が検閲対象になった日本からすると、皮肉にも覚えるけど…いや違うな、言葉ひとつに酷を見るのは。
なんとしても著すことを止めないために、如何な方策にも手を伸ばし足掻くことに違いはないだろう。
自身求めるところの実現とは、ちっぽけな個人のものであっても「世界」を守ることに違いない。
それは、歴史の大きな結節/帰結の後にも続く物語。