Domenico De Clario – Shaker Road: Quit Existing(CD Nonplace '02)独

linedrawing2016-02-02

目隠ししてのピアノ演奏と聞いて、ある境遇にある人やその状況を知る人は不謹慎と眉ひそめるかもしれないが、ここで意図されているのは内面世界への潜行だと思われる。
現にライナーにはチャクラ云々とまで書かれているし、精神世界へと意識駆るように湖畔のかつてシェーカー教徒の村だった場所で満月の日の夕刻から録音するという凝り様。
けれどその意図はどこまで実現されているのか。
音へ鋭敏になった感覚へ突き付けられるのは、同時に視覚封じられて思うがままには操れない肉体のはずだ。
ひそめられた眉の影は確かに差しているんだろう。
突飛な企みながら、実際曲芸めいたことは何も起こらない。
即興ではあっても思惑の残滓とばかりに微かにオリエンタル調(精神世界と来ればお決まりの東洋)のメロディが、覚束なげにゆらゆらとした運びで何度もテイク重ねられている。
驚かされるのは、結局響き自体が前口上を千々に裂いてしまって、ただただ美しく鳴っていること。
海の深みへと白い運指がひらひら落ちていく。
さて、裂かれた前口上を拾うは野暮なれど気に掛かることがひとつ。
目隠ししての描画まで行っている美術家としての制作の一端ではあるようだけれど、「目隠し」は彼にとっての作曲だろうか、それとも自らの審美に叶う響き導く手法なのだろうか。
作曲であれば、録音にある美しさとは相反する曲の体をなさなかったテイクに結果なったとしても、それをも包含する作品なのではないかと。
誤謬のない世界の響きか否か。
http://nonplace.de/records/non10-domenico-de-clario-quit-existingshaker-road/