ジャック・ヴァシェ - 戦場からの手紙(夢魔社/松村書刊)

linedrawing2013-09-18

読み終えたものの、なんだろうこれは。
三分の一をブルトンによる序文が占めていて、残る殆どが書簡、創作はいずれも見開きで収まる2篇のみ。
ブルトンに未だ興味持ったことがない身ながら手に取ったのは、ジャリの『超男性』巻末解説にデュシャン、ピカビアと共に機械崇拝者としてヴァシェの名があったから。
しかしやられた、巌谷國士も策士であったか、機械を例えの記述はあっても、これがマン/マシーンな志向を示すとは僕には思えない。
不幸は前線の人間と銃後の人間が戦中に出会ったことだろう。
創作の契機を与えてくれるにしても、耳をつんざく着弾音からシュル前夜の乱痴気はあまりに遠い。
ブルトンが憧憬を以て勝手な人物像を投げ込む虚ろは、実は黒くべったりとした戦争で満たされている。
英雄/一兵卒の違いもなく誰彼構わず殺戮の対象となる戦場にあっては、ブルトンの崇拝する個人の死などひとたまりもない。
目にしただろう塊と化す死は残された掌編小説に焼き付けられている。
そればかりかヴァシェは、書くことも出来たはずの生き延びた身を兵士の死として費やしてしまう。
しかし不在を以て人を測りたくはないな。
創らねば忘却に葬るまでと友人には告げよう。