ジュリアン・グラック - シルトの岸辺(集英社)

linedrawing2013-09-15

読み通せるのか危惧するほど修辞に修辞を重ねた息の長い文体が、長らくの興味を躊躇させていたジュリアン・グラック
なんのことはない、いざ本繰れば手もなくその言葉の叢に溺れている。
結果、頁尽きるのを惜しむように読み終えた『シルトの岸辺』。
仕官した主人公の赴任先は、実際には300年に及ぶ停戦状態にある前線…架空の土地を舞台にした物語を話聞かせれば不条理に閉じた変化の無い世界と思われるだろうが、
表面張力に任せた水を湛えたコップよろしく、決定的な時に向けてゆっくりと予兆が注がれる。
波紋や光が満ちる水面の進行を伝えるように、ここでは外面/内面の景色こそが物語…あらすじの笊で掬えるものではない。
そして逃れようもない崩落を綴らないことで、細部は物語の起結に使役されることなく緊張感を湛えたまま結晶化し輝く。
エントロピーに導かれ到った終わりの頁から振り返る眺めは結晶の森、それは物語から離れた別の予兆とも映る。