P. アレシンスキー - 自在の輪(新潮社)

linedrawing2017-12-01

昨年の大規模展覧会を切っ掛けに、ようやっと積読から救い出せた一冊。
図版も多く、ブルトンからアポリネールジャコメッティ…そして自身の画業へと巡り、イメージの原型探索する愉しき随想。
その予測は大筋違わなかったのだけれど、これがなかなかに厄介な文章で綴られている。
イメージの相似に気が付くと、しりとりみたいに、場所や時系列…どころか筋すら無視して話が飛ぶ。
しりとりは単語レベルにまで及ぶようで、その辺りまで酌もうとした訳文なのか、見たこともない日本語が頻出する。
だからといって、五里霧中に放り込まれた感もない、標は確かに示されている。
アレシンスキーは、デンマーク、ベルギー、オランダに亘る前衛運動コブラのメンバー。
コブラの中心人物アスガー・ヨルンの「はじめにイメージありき」志向を、「言葉ありき」のブルトンと対比して紹介している。
ブルトンを信奉するアレシンスキーの立ち位置は微妙だが、詩性が先行することは変わらぬものの、シュルの経脈がコブラシチュアシオニストに到って遂に言葉を抜き去りに掛かっているとも見える。
しかし言葉とは「そのもの」であることはなく、相互了解という伽藍の上に成り立っているだけで、意味を縛りつける力は実は持っていない。
読み手の能力次第で、言葉をジャンピングボードに高く飛ぶことも可能だ。
対してイメージとは眼前/脳内の「そのもの」であって、何かを固着しはしないだろうか。
だからこそ、アレシンスキーをはじめコブラの面々は、自由度を上げるため意味の縛りを切りつつ作品の量産へと駆られたのでは…。
いや、この不安は次に読んだコブラとも関わりのある本で解消しているんだけどね。
回りくどいことを抜きにすれば、出口なく紆余曲折するばかりのこの本は、きっとアレシンスキーが文章で描いてみせたドローイングだ。