ピエール・マッコルラン – 恋する潜水艦(国書刊行会)

linedrawing2015-03-30

厭人癖濃くなる春との思い込みが、熱出し身動き出来なくなってから風邪であったことに気が付く。
月末の予定は総崩れなれど、久々ゆっくりと本読む時間持てたのだから、まぁ良し。
治療待つ子供が待合室で一冊こっきり見付けた漫画本が如く、夢中で読み終えたピエール・マッコルラン『恋する潜水艦』。
収録の3編はいずれも海賊小説…といっても『ワンピース』みたいな心躍る冒険や、『宝島』のように胸が空くピカレスク・ロマンを期待して手に取ったら幻滅するかも。
登場するはいずれ劣らぬ俗物ばかり…にも拘わらずそれぞれが信じる海の兄弟の掟に囚われている。
予定調和が逸れるほどの激情は殺がれ、3編目の「金星号航海記」など、一人称視点にも拘わらず語り手が自らのことを綴るのは初めの4章までというほど。
そうだ、物語の「かたち」を打ち破るようなアナーキストがここには登場しない。
ただシステムを別な系で起動させる歯車、コースを換える転轍機としての悪漢ども…行きつく先が絶滅であることは変わらない。
それなのに頁繰る手が駆られるのは、ミニチュアとしての世界像。思いっ切りの奇想で拵えられた世界(話の起結に関わらない描写が異様なまで)が掌上で精緻に駆動する様は、夢中になって追わざるを得ないだろう。
虚実未分の古の紀行文や、シュル以降の仮想博物誌にも通じる感覚かもしれない。
布団での暇日に、水蜜桃のオアシス求めて世界旅行。