エルンスト・ユンガー - 砂時計の書(人文書院)

linedrawing2014-08-27

ここのところ、制作で空になった器に新たに注ぐように本を読んでいる。
著者の趣味である砂時計のコレクションの延長に拾い集められた古今東西時計を巡る逸話から、世界の骨格となった時間の姿が編まれる一冊。
身近なところを取っ掛かりにした軽やかな筆致の裏に、透かしで別の絵を描いていくような思索に引き込まれる。
描かれているのは、崩壊の予感と再生への希望が相克する見えない大伽藍の建築か。
ただ、文章の底に覚える一抹冷たい感覚は何だろう。
改めて頁繰れば、時間が伏魔殿と化すのを避けるために人間中心の尺度の獲得を謳いながら、超越希求するあまり多様性を削いでいる気がしないでもない。
乱立する建物ではなく、是も否も一個の塔へと収斂する景色が引っ掛かる。
過去繙ことが出来る現在からの穿った見方だろうが、それが著作がナチスの理論形成の一助となっていたことを思い出させる。
カイヨワのいう「おぞましさ」はまた別だろうが、いずれにしても危うい道を辿れば己の足元へと注意が向く。
自分の感覚に従ってどこまで遠く歩けるのか知るためにも、いましばらくは難所を選んで読み進んでみよう。