夜の辿り着くところ

linedrawing2009-01-28

空気の冷たさに、人と人の空隙を錯誤することがなさそう…それが、冬が最も好きな季節であることの理由の一つ。
だからか、暖かい心持ちで過ごしていると、不安も訪れる。
隣人に手を触れることが出来そうなのは、きっと僕の錯覚だ。


12月4日。
祝いの品にと依頼された制作に、応えて向かうはアクリル業者WAAZWIZ
ショップ・スペースの事務所から分離独立した先は、青山とあって他用重ね易い。
ドローイング施した古いポストカードへの加工をお願いして、歩いて渋谷へ。
時間もあって道々本屋/レコード屋に寄らぬはずがないのだけれど、然したる収穫もなかったのか、記す今にまで残る記憶がない。
待ち合わせの場所で社長にバイクで拾ってもらい、HERO INTERVIEWの事務所に。
WEB美術部FARU18の顧問として、部長さんと初顔合わせ。
自己紹介兼ねて互いの作品披露…目にした写真に封じられた光に眩む。
そうして、制作や好きな音楽の話をしていると、相手が高校生であることの意味はない。
‘顧問’とは正に肩書きばかりと、そっと置いて出る。


次へと向かう中、体調悪かったことが思い出されてくる。
待ち合わせで見合わせた顔は、奇遇にも二人してふらふら。
これは悪い徴かと訝しみながら、下見に入るCET会場。
展示空間と案内されたのは、経年著しいビルの階段踊り場から屋上への一続き。
揃って現金なもので、ロケーションに惹かれることで悪いものが抜けていく。
帰り道は翻って、企み話尽きずに弾む足取り。


6日。
レコード屋に寄れば、100円市。
わはいと漁って見付けたのは、我がフェイバリットTINKLERS。
複雑な気持ちになって手離せず、人への土産にと買い求める。


レコード繰る手に足を取られ、予定が危うい。
急ぎ、再びCET会場の下見。
ロケーションに浮かれて、試し描くのを忘れていたのだった。
剥落した壁の欠片を拾い描く。


刻限過ぎて到着する六本木。
Art By XEROXのクリスマス会。
早速にも久々に会う仲間見付け乾杯。
いや、久々どころか、はて何年?の顔まで。
年々規模は縮小する一方だけれど、それはスケールの問題で、例年通りの設えは揃っている。
その年のターミナル。
絵に描いたような酔っ払いの介抱しながら2次会へと連ね、大いに喋り笑った遅い夜。


10日。
昼飯調達に、乗り換え駅でパン屋へと走り、御馳走抱えてCET現場入り。
夕からの開場までに全ての制作工程を済まさなければならない枷はあっても、ブルーシート敷いて食事したりと、作業は屋上でのピクニック。
描くのではなくて、まるで線を見付けていくかの工程…心地良く力抜けて、あたりまえにある時間。
ここまでは共作者と分かつ秘密…と思いきや、描き上がったところで偶然にも知人の闖入。
展示あることも知らずって…こんな偶然あるだろうか。
計画の完璧は望めなかったけれど、それすらも僅かな確率の事象の連なりなんだ。
面白くなってきている。


夕から山口さんは、別ブースでの仕事に向かい、僕はペンからチョークへと持ち換えて描き続ける。
しかし来場者多く、応対に追われ、作業は遅々として。
気が付けば日本酒手渡され、月下に杯掲げながら。
終電までには制作済んだのだから、これも悪くはないでしょう。


11日。
都立現代美術館で打ち合わせを済ませ、そのまま学芸員さん案内してCET会場入り。
改めて夜のビルを外から眺めれば、各ブースの放つ光からか、まるで食材の分からぬ料理や無免許医療を収めているように怪しい。
そもそもは穏やかな表情の建物のはずなのだけれど。
自分達の展示へと階段登りつめれば、共作者の差配あって、手跡遠く静か。
やはりここは、居心地良い。
再会の顔を何時知ったものだか思い出せなかったり、遺跡に準えて観てくれる人があったり…訪れて、微かな描線の痕跡を追ってくれる人と話している内に、この日も最終での帰宅。


12日。
タッグ組んで巡る週。
この日も山口さんと原美術館JIM LAMBIE“Unknown Pleasures”展オープニング。
床じゅう弧を描く白黒ストライプに、ちらほらコンクリートのブロックが浮かぶ様は、枯山水と見えなくもない。
ブロックにはジャケット束が埋め込まれ、まるでレコード棚の化石…遺跡発掘で出土する知人の部屋か。
イベント・ホールでの開催挨拶は、マイク取り巻く観衆多く、遠く聞こえない。
中庭に出て美術館スタッフとニコニコ話す内、お約束のプログラムは済んだのか、作家によるDJが始まっている。
やっぱり音楽狂?JOY DIVISIONなタイトルとは裏腹に、ロックンロールで押し通す。
ガレージにもパンクにも落ちない選曲は気を遣ってのものだろうに…ホールから人が退いていく。
が横を見れば、素直に音に反応して踊り出している山口さん。
負けじと、こちらも応えて跳ぶが…遅かりし、その前にお世話になっているスタッフさんが駆け出している。
更に一カップルが加わり…僕らのみの贅沢なブース前。
こうなったら、出来るだけ高く跳んでやろうと跳ね続ける。
音止みくたくたのところを、一緒に踊った縁の初見の人にハグされて…そこそこの高さは得ていたのか。
こんな風に動けたのは、何時以来のことだろう…制作の外でもコラボレーターに教わっている。


13日。
名古屋で活動を続ける、自主アニメーション上映会animation tapes
“ドローイング日和”と題する回が、KINEATTICなるスペースで東京巡回すると知らせもらって、原宿に。
冒頭一本は見逃し、入場すれば既に画面には柔らかい鉱物。
それは、鉛筆の線の粉々が結晶化するような、全編の印象にも通じる井出絢子の作品。
そう、タイトルにある通り、女性作家による手描きアニメーションを集めた上映。
続く春成つむぎの作品は、愛らしい絵にもだけれど、ふつふつ湧く連想そのままに応じるかの映像に惹かれる。
特に、幼い兄弟の会話を収めた録音に、後から画を付けた“おしゃれぎつねとあぶちゃん”は絶品!
ほとんど、フィールドレコーディグ vs インプロビゼーションな趣き。
水尻自子は日本の前衛アニメの衣鉢を継ぐようなミニマル。
若見ありさの映像は、水底か夜空の雲を画と擬えた様な砂絵。
仕舞いに、影絵と音楽ののライブ。
以前に目にした時から進化して、それはもう暖かい居間の光景。
お茶とお菓子まで付いて…このプログラムで満足しない訳がない。


すっかり気持に伸びさせてもらった上に、打ち上げお茶会にも参加。
久々に会わす顔でも、交わす言葉に変わりはないものだと嬉しくなる。
そうしてCET会場へ、そのまま主催の林さんと畔の2人を案内することに。
作品、ロケーション共に気に入ってもらい、紹介した山口さんとも合致する符牒があった様子。
しばらく他来場者の対応に追われるも、別れる前に再びに盛り上がる。
この日の合言葉は‘濡れた子猫のように’だな。
いや、一向に分からない話だろうけれど。


14日。
展示観に来てくれるというので、馬喰町駅佐藤実さんと待ち合せ。
密売東京がカレー屋を出店していると前夜聞いていたので、揃って足を延ばせば、昨日一日のみの営業だったらしく、シャッターの前に匂いばかりが立ち込めている。
仕方なく、展示会場に戻る道すがら見付けた、これまた経年染みだす中華食堂で夕飯。
もやしそばと半チャーハンのセットを注文するが、そばがサンマーメンだとは思わなかった。
ズレているのは、焼きそばの類を想像したこちらの方だろうか。


戻ったビルにも待つ人あり。
展示の現場で、こんなにも自作について喋ったことはあるかな。
話すことが大切なことだと…そう感じていることにも驚く。
いや、山口さんとの作品についての話だった。
ありがとう。


口琴と鈴のセッションを演り、流れ星見、作品の印象を写真に留めてくれる人が現れ、手の内バラす失態に人を集め…。
賑やかに夜が、賑やかに会期最終日が更けていく。


15日。
クリスマス・プレゼントを求めた、藤沢の雑貨店。
説明から包装まであれこれ構ってくれた店員が、ポイントカードを作る段になって、僕と名前が一文字違いと分かって驚く。
僕からすれば、ふざけて呼ばれているような名前だけれど、きっと贈り物を助く分身。
だから、選んだものに間違いはないはず。
喜んでもらえると良いな。


20日
ここのところ予定を挫くのは、まるで手順であるかのように、行程にレコード屋を組むから。
煙草は喫わないし、酒も…意識が濁っては、せっかく口にした味がもったいない…と思う程度。
けれど、僕のは、代わりにこれだな。
今はネットショップもあり、忙しければ忙しい程に猟盤に溺れるみたいだ。


で、畔が影絵・音楽で参加する、聖路加国際病院での公演“25時の原っぱ”も中途入場。
チャペルを前にした古く美しい空間で、影絵を一番奥に、音楽、ダンサーの順番に視界を縁取る。
不謹慎かもしれないけれど、外から訪れた僕には、舞台眺める病院の子供たちも最前の景色となり、きらきらと輝いて。
眼に燐光が跡を付け、2回公演を良いことに、改めて冒頭から観ることに決める。


畔の2人に挨拶してから、開演までの時間、近所を散歩。
閉店間際のパン屋…大小あれこれのパンを収めた木箱を積んで…実用優先の店内に惹かれ、餡パン、シベリア購入。
コーヒー屋で飲み物も得て、食べながら歩いていると、気になる看板が目に付く。
特に‘あんみつ材料販売’。
さすが築地、明るい内なら、もっと発見がありそうだ。


戻って、入場時の場面まで確認して満足。
さぁ、次へ。
gift_labの3周年アニーバーサリー・イベントに。
が、予測していた以上にプログラムはとんとんと進んだらしく、既にライブは終了、空間はパーティへと移行する中。
知った顔も多いのだけれど、実のところ、人の多いところで居場所を見付けるのが苦手。
頼んで、選曲任せてもらい、早々に裏方へ。
パーティーの様子は、commune disc鈴木さんのコンピューターから実況発信されていたらしいぞ。


22日。
WAAZWIZから完成の報があり、なんとかクリスマス前に納品出来ると、ほっとする。
雨の中、仕上がり受け取った足で、art & river bankで開催中の“depositors meeting”展を観に多摩川へ向かう。
規格ファイルで、色んな作家のポートフォリオを集めた展示。
真っ先に開いのは、友人のクマリネさん…メモ書きの情報から画に考えが編まれていく様が、遠近で透かし見るよう…やはり、その仕事には惹かれる。
お知らせもらっていながら、なかなか実演/実作に浴せない山崎阿弥さんは、資料ばかりでも圧倒的。
古賀亜希子さんの写真は、風景のどこかに影を封じているようで、目にする度に気になる。
しかし、規格内に更に規格を設けるグループがあったり、各セレクターで重複する作家があったりと、水増しの感も否めなかった。
表の多摩川も、水位を上げているだろうか。


24日。
Art By XEROXの説明会。
わざわざ品川くんだりまで呼び出すからには、まさかのサプライズ・イベント…は冗談。
世情も世情、案の定、メセナ撤退の話。
体裁作るのに、人集めて会まで設けるのかと、終わってのお茶の席に作家同士でぶつぶつ。


都内まで出たからと、渋谷回ってレコード針を探すが、どこも‘注文頂ければ’との答え。
入荷に応えて上京することを考えれば…通販利用と帰る。
距離感が錯綜している。


27日。
池袋に出ることはそうないからと回るが、目当ての和菓子屋は空振り。
軒先には、‘本日分、終了しました’の札。
気を取り直して踏み込むレコード屋はなかなか…収穫得たビルを出ると、消防車の梯子が掛っていたのには吃驚させられたけれど。


要町方向に歩いていると、携帯に電話。
はい、今、向かっているところ。
HERO INTERVIEW / FARU18の忘年会。
空気硬かった始め、敷居のこちら側が大人?
でも、持ち込んだCD鳴らして喋り、黒板の見立てに揃って描くに至っては、すっかり和んで。
皆、本当に音楽が好きだよね。


社長、編集長、顧問と、重そうな肩書きの3人は、FARU18メンバーが帰宅してしばらく後の解散。
‘良いお年を’。
それが、こんなに尾を引いて響くとは思わなかった。


28日。
映像制作の打ち合わせで、山口さん、寺本綾乃さんとgift_labに集合。
女性陣は初顔合わせ。
二人の言葉だけを追えばちぐはぐな遣り取りとも見えかねないけれど、複雑な形状の歯車が噛み合うようにピタリ呼応する様は、きっと素敵な出会いだ。
それは、揃って覚えたはずのこと。
期待抱えて年を越そう。