語る疼痛

linedrawing2008-12-03

医者に行っても尾を引く歯痛に、鎮痛剤漬けの数週間。


招待もらうまで、知らなかったTapeの来日。
JOHANは2月にSTEN SANDELL TRIOのメンバーとしても来日しているから、意外に近所で活動しているんじゃないかと錯覚する間隔。
近所であったとしても、機会逃せば顔合わせられないもの…応えて、いそいそ出掛ける10月9日。


探していた盤がデッドストックで入荷したと知って、新宿周って寄るレコード店
うわぁいと望みの品を抱えた手に、店主が被せる言葉が少々耳に付く。
本気でレコード手に入れるなら、新品でない限り1万2万支払うつもりでいないと…云々。
その言葉からすれば微々たる金額で、もう一方の手に提げた袋の中に収まっているは2枚。


渋谷 O-nestに着いた途端、JOHANのニコニコ顔と出交わし挨拶。
上機嫌の訳は、後のTenniacoatsとの合奏を耳にして納得。
そもそも、この日のTenniacoatsは鳥肌ものだった。
それぞれが僅かに持ち寄った音で編む唄は、気持ちの芯をきゅうと絞って。
息切らしてやって来た優しさ。
そこにTapeの面々がリコーダーに鼻唄まで携えて加われば、ほっこりと緊張が解けて。
後に続くTape単独での演奏は、この出会いを祝う、深々と鳴るファンファーレだ。
深夜に途絶えたエコーを追って、会場で久しぶりに会ったSweet Dream編集長とASUNAとで、駅までの道、話は尽きない。


10月15日。
以前に作品見てもらったこともあって、今日までの変化を再びに目にしてもらおうと、中島英樹さんの事務所に向かうTUROISE. ROSCO.オールスターズ。
平常越えることの連続だろう仕事場で、平常な言葉を貰えることが有難い。
帰り道、思い付きに乗ってのボーリング場、唐突に始まるTUROISE. ROSCO.杯。
他二人の剛腕スコアに、このままではカモにされかねない。
腕磨かなければ。


10月21日。
某大学の教室勝手拝借しての、em yamagchiさんとの映像制作、テストシューティング。
制作の前後で、学食寄ったり、教授に紹介してもらったり、授業もぐり込んだり、展示観たりと楽しんでいたら、夕から予約取っていた歯医者の時間が危ない。
急ぎ駅へと向うもダイヤの谷、いつまでも電車が来ない。
諦めて町田で下車して佐藤実さんと合流。
揃えば毎度の中古盤屋巡り、そして燻製の旨いバーで一杯。
なにより鮭の味が絶妙だ。
店を出ると、角を曲がって見えなくなるまで、甲斐甲斐しい店員が頭を下げている。


10月23日。
酒席で、催してくれた玉の肌石鹸とミラノでの展示の反省会…の反省をここに記したところで仕方あるまい。
ただ、あれこれ過ぎたる夜。


10月25日。
来年に二人展を予定している、片岡雪子さんの展示を観にGallery it’sへ。
個展タイトルは“霧”。
試験板を思わす微々たる差異を表す、小さなパネルが並んでいる。
それは、コマで撮られた変化なのか、切り取られた定点なのか。
作家と偶々足を運んでいた人とで、展示巡りのことなど話に出て、ここのところ風景ばかりに気を取られていて、人の手が入ったものをあまり目にしていないことに気付く。


オフサイト・オーナーと佐藤実さん…顔触れだけで、もう楽しみにしていた夜の会食。
現在空間はないけれど、僕にとっては恩師の恩師たるギャラリー、オフサイト。
久々に、その鋭敏でいて柔らかい感覚に触れることが出来て嬉しい。
しかし、話題が映画ともなれば、揃いも揃ってノワール嗜好が強いような。
夜更けるほどに、甦ってくる場所…新たに作る場所。


10月29日。
NADiffでショーケースに作品・グッズをディスプレイ。
いそいそと作業していたら、加えて2ケースも用意してくれる大盤振る舞い。
入口脇を占拠しています。
柱めいた設えがトーテムポール、さて何を刻もうか。


BEAMSのバイヤーと対面。
商品展開において、至極もっともな指摘を受ける。
辛辣ではあっても有益な意見と、粘って多くの言葉を求めたが、変わり者と思われただろうか。
同行者に呆れられる。


来日を知って、慌てて予定に入れたIGNATZ公演。
高円寺、円盤へ。
ミクシィで僕が騒いでいたので、なにをそんなにと足を運んでくれた人もちらほら。
が、先陣切るタバタミツル+スズキジュンゾの狂言回しな進行に、一見でロックンロールパーティーに誘ったかと不安になる。
それでも拾ったきらきら光る音粒は、次陣で粉砕される。
頭からビリビリと飛沫散らして鳴る、道下慎介+植野隆司+高橋幾郎のトリオ。
ドラムが砕け、ギターが溶け、一方で寸断される。
それが、曲を追う毎に唄へと像を結んできて…3曲目辺りで、ほんと泣きそうになっていた。
仕舞い飾るのが、目当てのIGNATZ。
驚いたのは、CDで耳にしていた異貌が仮象であって、実にオーセンティックなブルースマンであったこと。
ただ、その発音が。
ライブであるはずなのに、針音生々しくレコードから鳴っているようで。
トラッドめいた節回しともなると距離感が失われて、遠く荒い通信に耳を澄ましているかのよう…ベルギーから発信された景色なのだろうか。
後者2組は謙遜からか演奏短く、会場に残った残響を探してしまう。


終わって、植野さんの最近はクラッシックを耳にしているとの話に、演奏に影響が表れるかと尋ねたら…自分でも分からないだろうけれど、出るとしたら10年以上先…の答え。
あの音が、記憶深い層からのエコーかもしれないと想うと、その回答にしびれてしまう。
そうか、いつ表出するか分からない‘現在’なのか…と、自分の手を見る。


10月31日。
母の買い物に付き合って茅ヶ崎
何十年も通っている商店街で、初めて気付く看板。
こんなところに中古盤屋があったのか。
近所でレコード店に出交わすなんて、それこそ夢では遭遇したことがあるけれど。
経年染みた店内・店主ばかりを確認して、ゆっくりに訪れる楽しみを残して出る。


ショーウィンドウの作品に目を留めると、中から声を掛けられる。
Gallery 街路樹、大久保草子 木版画展。
バラ、鉱物、渦…と、好みの図像現れる作品に惹かれつつ、ゆっくりと観る時間がない。
こちらも作家であることを言い当てられたこともあって、会期中に再訪することを約束して辞す。
頂いたポストカードが、出会いの手形のようで暖かい。


11月1日。
日が経ってから綴るものだから、定かではないこと多々。
支持体にと、古い絵葉書求めて古書日月堂に足を運んだのは…この日だよな。
訪れれば起こる、評価の間に埋もれた面白いものたちの話。
そして、日々チリチリと散っていくデジタルデータのこと。
同じ古物商でも、先の新宿のレコード屋の対岸にて。


城達也 さをり織り作品展で、織り機運び込まれたGallery it’sに、象牙細工のサンプル納めに。
つい話し込む中、僕の手業は病という結論に。


あやういあやういと、閉廊間際に辿り着く湘南くじら館、‘版画と雑貨と本と’展。
お知らせくれた吉田稔美さんも丁度在廊していて。
…と、慌てていて印象落としてきたか、中二階へと連なる面白い空間に俳諧並ぶ…としか、今になっては書けない。
ああ、それと、駅までのがらんとした道を憶えている。


そうして11月3日、再訪する茅ヶ崎
まずはと向かった中古盤屋で、レコ箱を端から端へと繰っていく。
何時間居ただろうか…結局、僕にとっての掘り出し物は見付からなかったけれど、この場所としての存在が有難いかな。


大久保草子さんの展示へ足を運ぶと、最終日とあっての賑わい。
当人が対応に追われる中、会場に訪れていた他作家同士で話を継いでいく。
版画作家のネットワークに交ぜてもらえたよう。
彼女たちに相談したら、ずっと構想していた制作が実現出来るかな。


11月8日。
古い自作の音源のデジタルデータ化をお願いして、機材借りに向かう某美術館。
かつてカセットで、渋谷のパリペキン・レコードで販売してもらっていた…と言っても、相槌打ってくれる人はここには無いだろう。
バンドの音までCDRに落としていたら、作業は夕まで掛ってしまった。
手配してくれた学芸員さんと、駅前の串焼き屋で一杯。


11月14日。
今日は撮影本番だというのに、朝からやけに低いところに気持ちがある。
どうにか盛り上げようと、頭の中で四苦八苦する内に駅についてしまう。
某大学内で手順決めたところで、em yamagchiさんがお弁当用意していてくれて、気分がほころび始める。
さてと教室に忍び込み、描き始めたらもう、いつものこと。
いや、真っ暗になって作業済んだ時の達成感は、彼女のひたむきさにも当てられてのことだと感じる。
ありがとう。
きっと、すごく良い作品になる。


写真家の中島博美さんに、漫画家の岩岡ヒサエさん、クマリネさん…という豪華面子での会食に神楽坂。
久々に揃う中、それぞれがトピック抱え、話尽きない。
皆、新しい領域へと踏み出している。
さあさ、遅れないように、僕も走りださねば。
…終電に間に合わなくなる。


11月22日。
Gallery it’sで、象牙細工の受注の打ち合わせ。
トントンと話詰む。
制作もトントンと進めば良いのだけれど…さて、納品はいつ?


ミラノでの展示から生じた縁で、イタリアからの雑誌取材。
まずは紹介も兼ねてとgift_labでミーティング。
それぞれがそれぞれに足らない英語で、伊東篤宏さんも加えた3組の大枠での撮影手順を決める。
そうして、夕飯にと抜けて、記者さんと2人焼鳥屋で一杯。
鄙びた空間を面白がっている。
gift_labに戻り、あとの夜は任せる。
初めての来邦と聞いていて、せめても不安無きよう応じられれば…が効いたのか、どっと疲れる。
まさか後日、自ら話蹴ることになろうとは…この時は思ってもみなかったのだけれど。