漂着

linedrawing2007-08-12

7月30日。
制作に籠る毎日が続いていると、たまの外出の機会に、つい予定あれこれ連ねてしまう。
肝心の用事は、額装の発注に六本木。
展示では拵えることもなくそのまま作品掲げることが殆どなのだけれど、仕様選ぶ楽しさに、なんでも縁に収めてみたくもなってくる。
ふむ、標本箱のようだ。


寄ろうと思いながらなかなか機会得られなかった、東京ミッドタウンに移転してからのFuji Xerox Art Space
松濤美術館での回顧展を見逃した大辻清司の作品も多く並ぶとあっては、迂回も出来ない“実験工房とAPN”展。
北代省三山口勝平らのオブジェ煌くモノクロの写真に、湯浅譲二の響きまでがクラクラと鳴っている。
それにしても、受付の知人と話しながら遠目にも眺めていると、場所柄か、迷い込んだかのように駆け足で過ぎる来場者の多いこと。
どこに向けてかは自分でも判断付きかねるけれど、‘勿体ない’と一言零れる。


竹中工務店の本店ビル内にあるとは思ってもみず、警備員に案内されてのギャラリー エー クワッド
クリスティアーネ・レーア展。
入口脇に掲げられたタイトル、文章諸々も素通りに、眼は作品に引っ張られる。
種や枝、花など、あまりに儚い自然物で、それぞれとても小さなテリトリーが囲われている。
次の瞬間への持続すら疑う脆さから、内に何かを籠らせることはなく、透かすように佇む。
フォーカス甘く描いたかのドローイングも、その線の向こう側へと視線を導く。
これらが今ここにあることの驚きに、震えが来るほど。
抜けの良いはずの空間に捉われている。


初めて触れた時の衝撃が未だ残っている、佐藤貢さんの作品を訪ね、茅場町
森岡書店での“ワルツ”展。
後にトークイベント控え、鑑賞時間残り僅かな会場。
窓から川面が見える、本積む空間に、影のようにポツポツと作品が置かれている。
‘影’と譬えたのは、光の関係で空間が成したかのようにも見えたからで、かたちがそもそもそのようであるかの印象は場所を違えても変わらない。
部分部分に綻ぶ造形の手跡も、矛盾なくその印象の中にしっくりと収まる。
立ち去り難くなり、予約入れていないイベントの参加を聞いてみると、キャンセルが出たのでOKとのこと。
同じビルの階上に別のギャラリーもあるとも教わったので、開演までの時間に上ってみれば、RECTO VERSO GALLERY志水児王“INNERSCOPE”展。
志水さんからお知らせもらっていたことを忘れていた…ここだったのか。
暗く白いキューブ内、水面の波形と水中を貫通するレーザー光が壁面に投影され、伝達と干渉を伝えている。
景色から景色が抽出されていくよう。
飽くことない眺めに時間費やし、急ぎ階下へ。
佐藤貢さんと、文筆家の大竹昭子さんの対談。
大竹さんの舵取り鮮やかに、始めこそ制作までの経歴を一段とするのかと思いきや、話の方向も内容も大海に漕ぎ出したか、いつまでも作品に辿り着かない。
どこに向かうのかも分からないのだけれど、積み上げられていくエピソード一つ一つの興味惹かれること。
といっても僕の言葉では到底伝え切れない。
佐藤さんが発して初めて魅力的に響く話。
終って、流れ着いたのが現在…という感覚が強く残る。
実際のところ、ものづくりにしろ、覚えのある端緒とはこの感覚ばかりなのでは。
出演者、関係者、他来場者とも言葉を交わし、会場を後にする。
ふふ、気持ち浮かれているな。


8月3日。
駅へ向かう自転車が、釘を踏んでパンク。
そばにホーム・センターがあったのを幸いと持ち込むと、販売のみで修理は対応していないそう。
ならば、イトーヨーカドーでも自転車は売っていたはずと、汗かきえっちら引いて行けば、こちらは承っていた。
ほっとはしたものの、余裕持って出た時間がもうない。
以前自転車屋に、以降に掛かるタイヤ、ブレーキ等の消耗部品代を加えたのが自転車の値段だと言われたことがある。
そうなると、自転車と(自転車)を売る店があるということなのかな。


他を回ることは出来ず、真っ直ぐに吉祥寺。
OLD/NEW SELECT BOOKSHOP 百年、“百年「と」装丁探索”。
自身ブック・デザイナーでもある大貫伸樹さんが、明治末から昭和初期に掛けてのお気に入りの装丁家8人を語る催し。
ドリンクに選んだペットボトルの7UPが、あちこちでも吐息のように気を抜いている。
杉浦非水、斉藤昌三、橋口五葉、木下杢太郎、恩地孝四郎村山知義柳瀬正夢竹久夢二…。
迂路、横道の多い話は楽しいものだけれど、本当に8人挙がるのかとヒヤヒヤしてくる進行。
畢竟急ぎ足になる後半、それはそれで話題に上る前衛の歩調と合うようでもあったり。
ただ、未来派や機械信奉について触れる際は、作家と戦争との距離に一言あって欲しいと思うのは…僕の勝手か。
機械主義者にとってみたら、戦争がF1のようなテクノロジー輝ける場ともなりかねないのだから。
…などと細かいことを実際に洩らす間もなく、下北発の最後の快速目指し、急ぎ退出。