フアン・ルルフォ - ペドロ・パラモ(岩波文庫)

linedrawing2014-10-28

物語の始まりこそ、顔も知らぬ父親をコマラという土地に訪ねる男の視点で告げられるが、
瞬き毎に語り手が変わり、時間の前後をもスキップする。
読んでいると…この目で見ていながら「わたし」ではない者として行動している感覚、思うように動けず、物事は進まない…夢の中にあるような感触を覚える。
夢であるならば、宙吊りにされているのは読者ばかりでなく、登場人物にしても同じ。
頁繰る中で我々が捉われているのは、既に皆死していて、堆積しては徐々に/もしくは頻発する暴力で崩される円環世界であることが露わになっていく。
目指すべき希望や郷愁は人の口からしか語られない。
にも拘わらず、円環の中で繰り返し立ち上がる生命のようなものはなんだろうか。
途方もない茫漠さか、崩れゆく砂粒の運動だろうか。
すっかり荒野に魅入られている。