R・カイヨワ - カイヨワ幻想物語集 ポンス・ピラトほか(景文館書店)

linedrawing2014-01-09

読むことで憑くかに思考に駆られたけれど、その印象が口に昇るまでに数ヶ月。
掌編挟んで置かれた、それぞれノアの箱舟、キリストの磔刑に材を採った2篇の強烈さに眩んだか。
歴史、言い伝えられてきた事象を既定の点として、経緯で結ぶことに齟齬を覚えたところで僕らは無視しているが、
その一点たる状況に意識を置いたらどんな経緯を延ばすだろう。
不動の現在へ向かって在り得るだろう景色が雪崩れ込む。
ポロックの画に纏わる思い違いを綴った「怪しげな記憶」でも、結果意識が景色を変容させている。
変身譚であるはずが周りの反応が語られない「宿なしの話」が、訳者あとがきに触れられている通り‘擬態’をモチーフとしているなら、
それはどんな本質を守るためのどの外殻の変容なのだろうか。
ボルヘスの短編「隠れた奇跡」に通じる、世界構造に手を加えること叶わない代わりに人が与えられた無限の認識であるような気がしてくる。